ピジャージュとルモンタージュ・・・


除梗率が高いと発酵が始まる前の潰した葡萄の雑菌繁殖、酸化のリスクが高くなります。

それを防ぐ為にはSO2が多く必要になりますが、醸造中のSO2の添加は酵母の働きを妨げるとも言われてますし、 添加のし過ぎは、良くないとの認識が世界的に拡がっているので、 醸造時の使用は出来れば ごく少量、若しくは無しで造りたい。
(フランスは、ワイン法で使用が義務付けられていますが・・・)

ひとつの例として、

二酸化炭素やドライアイスの使用。

(タンク内の空気を取り除くため、窒素、二酸化炭素を充填し酸素と液体との接触を絶ちます)

全梗(全房)での発酵を選ぶと・・・
リスクは少なくなりますが、それはそれで房と房の間に溜まる空気、(つまり酸素)が酸化を引き起こす原因になるので、SO2を使わないのであれば、やはり同じく二酸化炭素を注入して空気をタンクから追い出しますが、注入量は除梗の時より少なく済みますので効率、かつ経済的です。

(二酸化炭素は空気より重いので、空気を上に押し上げタンクの外に出すことが出来ます)

酸化を防ぐ方法だけでも多岐にわたり、失敗の出来ない選択を強いられています。

除梗か全梗かを決めるだけでも考え方は色々。


除梗で仕込んでいるドメーヌ当主は、

「枝からでる水分がワインの色を薄くするから除梗している」

「枝から出る渋味、えぐみが好きではないから・・・」

と仰ってますし、全房発酵のドメーヌ当主は、


「枝を切るから、そこからエグミが出る。だから手を加えず房ごと使う」

「枝が含む約75%の水分がタンク内の急激な温度上昇を抑える方向に働き、ゆっくりとした 理想的な発酵状態に導ける」

と両者には正統性を訴える色々な理由がありますが、きっと どちらも正しいのだと思います。

ワイン造りに正解はありません。

大事なのは 「その事を」知っているかどうか。

先日お会いした

全房発酵でワインを造る、
フィリップ・パカレ氏が

《マセラシオン・セミカルボニック》

と説明下さった発酵方法・・・


二酸化炭素注入により自然酵母が活性化する前に酵素の作用により葡萄果皮の内側から発酵を始めさせる方法の事で、
メリットは、
発酵が早く始まれば、酸化のリスクは軽減出来、瓶詰めの時までSO2の添加をしなくて済むし、ワインがフルーティーに仕上がる。

デメリットは、
ドライアイス(二酸化炭素)を多く入れ過ぎると温度が上がりにくくなり、その後の自然発酵に影響が出るので、こまめな温度調節が要求され、 それには充分な知識と経験が必要になる。

経験値が上がるまで棄てなければならないヴィンテージが出てきてしまう可能性がある。

《マセラシオン・カルボニック》が
《ボジョレー・ヌーヴォー》を造るときの方法なので、
《マセラシオン・セミカルボニック》
という名称がどうもイメージ的に・・・

というところでしょうか・・・

除梗か全房かだけでも、これだけ考える事があります。

大変?まだまだ。

発酵が始まると、上からの圧力で葡萄を潰し沈める
(伝統的には、主に素足で葡萄を踏みますが、機械的に行うドメーヌもあります)

《ピジャージュ》

をするか、タンクの下からポンプで抜き出したマストを上に戻し入れ、浮き上がった葡萄の房を下に沈める

《ルモンタージュ》

にするのかを決めます。

必要に応じて両方を使い分けている
ドメーヌが殆どですが、
フィリップパカレ氏は、絶対に
《ルモンタージュ》はしないそうです。

一見 葡萄を素足で潰す

《ピジャージュ》

より、
上から葡萄ジュースをかけるだけの

《ルモンタージュ》

の方がデリケートの様に感じますが、どうやらそうでも無いらしいのです。

氏曰く理由は、ふたつ。


ボルドーが起源の
《ルモンタージュ》は、繊細な
ピノ・ノワールには不向きだと言うこと。

ポンプで吸い上げたマストは、空気を多く含み酸化の原因になるのと、酸素により酵母が活発に活動し、発酵が早く進み過ぎる。

たそうです。

気が遠くなって来ました・・・

《ピジャージュ》は発生するガスによる中毒死、アルコールと炭酸ガスにより気絶後、(ハーネスが外れて)もろみの中での溺死など、死亡事故に繋がる危険な作業ですので、なるべくなら
《ルモンタージュ》で済ませたいところですが、デリケートなワインを造るには人の足で丁重に加減しながら葡萄を潰せる
《ピジャージュ》が必要不可欠な作業のようですね。

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原点回帰がいわれる昨今、昔ながらの《ピジャージュ》に戻るドメーヌが増えているそうです。

この先も 選択と決断は続きますが、それはまた別の機会に・・・