表題は、ワインのデギュスタシオン中、特にブルゴーニュの造り手が頻繁に使う言葉です。
ブルゴーニュワイン・・・
前々回のブログでご紹介した
マダム ルロワの言葉。
実は あの文言の前にもう一文あります。
「ミュジニーは繊細な・・・おそらく世界で一番繊細なワインでしょう」。
こちらは、ヴォーヌロマネ村の造り手、
ドメーヌ アンヌ・グロ当主
アンヌ・グロ女史。
アンヌさんは、試飲中
「あなたのワインはとても女性的ですね」
と言ったジャーナリストに
「エレガントと言って欲しいわ」
と返したそうです。ワインを構成する要素は複雑で多岐にわたりますが、ブルゴーニュのヴィニュロンがワイン造りの際、表現しようとしているのは、
《土地の個性を表す》
と
《空気感漂う軽やかさ》
一つ目は言わずと知れた
《テロワール》
(余韻とフィネスはここで決まります)
二つ目が《アエリアン》。
(エレガントの要因はここにあります)
マダム ルロワとアンヌ・グロさんが言葉の外で仰ったのは、実は ブルゴーニュワインの本来在るべき姿そのもの。
では、何故わざわざ言わなければならないのか?
ブルゴーニュは一時期、最大の輸出国であるアメリカのニーズにあわせて、抽出の濃いワインを造っていた期間があったのです。
つまり、ブルゴーニュワインのアイデンティティーを捨てざるを得なかった時期が・・・
とりわけ 繊細なシャンボール・ミュジニー村のワインに影響があった様に思います。
(この時期、海外に迎合せずにワインを造り続けられた造り手の多くが、今現在 割り当て等でしか購入出来ないワインを造っている、いわゆるスター・ドメーヌと呼ばれているのは、とても興味深いです)
ところが初めのうちは順調だったこの路線も、何年か後になると、本来のブルゴーニュ愛好家がこの抽出の濃い重いワインに興味を失いはじめたのです。
愛好家曰く
「飲んでいて疲れる・・・」。
ジュヴレイ・シャンベルタン村の
ドメーヌ フーリエ
当主ジャン・マリー・フーリエ氏も
「レストランでワインと供に食事をしているとき、水が欲しくなったら そのワインは何らかの要素が強すぎるんだ」 と言ってます。
(複数試飲でガス入りの水を飲むのは口内をリセットする為の行為ですから、これにはあたりません)
事態の深刻さに気が付いた造り手の何人かが ようやく原点回帰を口にし出したのは90年代後半になってから。
本来のブルゴーニュワインに戻るまで10年以上掛かったドメーヌも、無くなってしまったドメーヌもありましたが、今では流行やワインジャーナリストの得点を気にせず、ご自分の造りたいワインを造れる とても良い環境にあるのではないでしょうか。
シャンボール・ミュジニー村。
《ミュジニー グラン・クリュ》
レミントン・ノーマン マスター・オブ・ワインをして
「最も偉大なブルゴーニュのひとつ・・・ではなく、地球上でもっとも偉大なワインのひとつ」
と言わしめました。
中心にしっかりとした酸の骨格があり、樹齢の高さから来る複雑さ、深遠なる芳香。
旨味と液体の絶妙なバランスと濃度で飲み手の集中力が試され、ピノ・ノワール精一杯のタンニンが緊張感を高める。
でも しかし 濃いわけでは無いから飽きが来ない。
空気を含んだ様な軽やかさと、繊細なシルクの喉越し、テロワールを表すエレガントな仕立て。
薄いのでは無いのです。
全てを十分備えた上でアエリアン。
ドメーヌ ジョルジュ・ルーミエ当主
クリストフ・ルーミエ氏は
「アムルーズとミュジニーは・・・
まるで風景をみるときのように、 目を凝らして見れば見るほど新しい発見があるのですが、こちらが探しに行かないと見つけそびれてしまうのです。」
でも心配は要りません。
小さく手招きをしてくれていますから・・《Le Musigny est un vin très fin・・・probablement le plus fin du monde.》