M L F・・・と三陸の牡蠣・・・


《Fermentation malolactique》という言葉を初めて聞いたのは、25年程前の事になりますでしょうか・・・

「マロラクティック発酵は・・・
リンゴ酸を乳酸菌の働きで乳酸に変化させる発酵のことで 酸をまろやかにする効果があります。」

今ならすぐに知ることが出来ます。

しかし当時は、ワインの教本やワインスクールは勿論、インターネット環境等、今なら当たり前の物が存在すらしていませんでしたから、意味など解らず 調べようもありませんでした。

造り手との会話の中に これらのワイン用語が出てきたら もうパニックです。

本当に便利な時代になりました。

さて、25年程前の話。

友人とパリの老舗レストラン《マキシム》で食事をする事になり 先ずは

“シャンパーニュ”

“フリュイ・ド・メール”
を注文。

テーブルに運ばれた生牡蠣にレモンを搾って食べようとしたところ 側に居た初老のソムリエ氏が止めに入ったのです。

「君が注文した シャンパーニュ《ランソン》はマロラクティック発酵して無くて、十分に酸味が有るからレモンは搾らなくても大丈夫だよ」

ほほう。

“マロラクティック発酵と云うものをして無い”

と どうなのかは知らないけれど、

“レモン無しで食べなさい”

と言ってる様な事は解りました。

ソムリエ氏、ずっと見てます。

仕方ないので言われるがまま 牡蠣を口に含み 良く冷えた《ランソン》(ノン・ヴィンテージいわゆるブラック・ラベル)で流し込むと・・・美味しい。

(レモンとリンゴ酸は共に殺菌作用が有り鉄分等の吸収を助ける要素もあるので、マロラクティック発酵をしていないワインと楽しむのは理にかなっているのですね)

酸味が素晴らしく生牡蠣に合ったと記憶しています。

その時に一般のフランス語辞書に出ている言葉でこの “フェルマンタスィヨン・マロラクティック” なる単語をソムリエ氏にご教授頂き、以来忘れられない言葉の1つになりました。

《マキシム》のソムリエ氏がもう1つお話をしてくれていました。

「君の食べている牡蠣、もともとは日本産だよ」

確か説明ではブルターニュ産と仰っていたはず・・・

話を聞くと、1970年代にブルターニュ産の牡蠣はウィルス性の病に見舞われ壊滅状態だったらしいのです。t02200367_0240040012417937813私がその夜《マキシム》で食した牡蠣は、一報を受けた 宮城県の方々が種牡蠣を義援したことにより 見事復活し、育った牡蠣だったのです。

その話を聞いてから20数年・・・

牡蠣好きで有名なルイ・ヴィトン家 5代目当主 パトリック・ルイ・ヴィトン氏が東日本大震災で壊滅的被害を被った宮城県に

「フランスが受けた40数年前の恩返しです」

といってブルターニュ産の種牡蠣をお贈り下さった事をニュースで知った時、パリの老舗レストランで聞いた日仏友好の話と、何故か「マロラクティック発酵」を昨日の事の様に思い出しました。

その後この話を忘れたことはほんの一時もありませんが、もう2年近く経ってしまいました。

近い将来、宮城県産の牡蠣を食されているフランスの方がいらっしゃったら ・・・今度は私がお話をする番です。

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